【欅坂46小説】ピッチャー交代!平手友梨奈!

欅坂46 小説 平手友梨奈

夏の全国高校野球東東京大会決勝は欅坂高校VS日向坂高校の3-2欅坂高校1点リードのまま9回のオモテを迎えていた。

欅坂高校監督の土田はここで先発の渡邉理佐を諦め1年生の井上梨名をマウンドに送った。理佐にあと1イニング抑えてほしいという思いもあったが、決勝大会が行われていた明治神宮球場は38℃という猛暑の中で行われていた。その中で理佐の球数は8回終了時点で185球に達していた。いつもクールに見せる理佐が表情からも消耗している姿を見せていたことから土田は交代を決断した。

「頼む。あと1回抑えれば甲子園なんだ。」監督の土田は祈るような思いで井上を送り出した。

ピッチャーの井上は1年生ながら球の速さには定評があり、これまでの予選でも理佐を後を受けてマウンドに上がることはあった。

しかし、今回の登板は決勝のマウンド。やはりこれまでの登板とは緊張感が違うのか先頭の7番佐々木美玲、続く8番丹生明里とストレートのフォアボールを出してしまう。1球もストライクが入らない投球に球場はざわつき始める。沈黙する欅坂アルプススタンドとは対照的にブラスバンドを中心に一気に盛り上がる日向坂スタンド。

会場の雰囲気は完全に日向坂が圧倒していた。

日向坂高校若林監督は9番ピッチャー上村ひなのに回ったところで代打金村美玖を送った。上村は1年生ながらアンダースローから変化球中心のピッチングで8回を投げ切った。

若林監督は代打金村を告げると野球部顧問としてベンチに入っていた佐藤満春部長は上村のもとへ行き「プレッシャーもあっただろ。よくがんばったな。」そう声をかけると上村は「とても長かったです・・・」と言うと緊張の糸が切れたのか倒れそうになるところをなんとか加藤史帆が支えた。それほど猛暑の中での投球はきついということだ。その姿を見た佐藤部長の目からはとめどない涙が溢れた。

意識が朦朧とする上村はマネージャーの宮田愛萌に抱えられながらベンチに座った。

ノーアウト1塁2塁で代打金村に若林監督が送ったサインはバントだった。打席に入るとすぐにバントの構えを見せる金村。

欅坂高校としては1点もあげられない状況ながら1球もストライクが入っていない井上を見ると、まずは1アウトを取って落ちついてほしいと土田監督は思っていた。

そんな土田の思いとは裏腹に井上が投じた1球目はデッドボール。

当たった金村よりも痛かったのは欅坂高校のほうだろう。

明らかに動揺を見せる井上を見て土田監督が動いた。

場内アナウンスが流れる。

「欅坂高校守備の交代をお知らせいたします。ピッチャー井上に代わりましてセンターの平手がピッチャー入りピッチャー平手、ピッチャーの井上がセンターに入りセンター井上。」

土田監督がセンターの平手に合図を送ると平手はマウンドに走っていく。

これまでセンターを守っていた平手友梨奈は全国的にも名の知れた存在で、春の大会では高校野球雑誌の表紙を務めるほどの存在だった。しかし、春の大会終了後、腰部の打撲・関節捻挫による仙腸関節不安定症に加え、遠位橈尺関節痛と診断され夏の大会は野手に専念していた。

全く投げられないわけではなかったが万全の状態ではないと判断した土田監督は登板を控えていた。だが、1点差でノーアウト満塁のピンチを任せられるのは平手以外にいなかった。

平手がマウンドに着くと井上は涙目になりながら言った。「すいません。こんな大事なときに・・・」
そんな井上を見ながら平手は「大丈夫、あとは任せて。」そういうとボールを受け取り井上の肩を2度叩いた。

平手が投球練習を始めるとバックネット裏のマスコミ関係者やスカウト陣が一気にあわただしくなる。

MAX155キロの速球を武器に豪速球女王と称される平手の登板に球場内の全員の視線が注がれる。

今大会は初登板となる平手の状態がどこまで戻っているのかは分からなかったが、1年生ピッチャーで抑えられるほど甘くはないと悟った土田監督が腹をくくった決断だった。

欅坂高校1点リードで迎えた9回オモテノーアウト満塁でピッチャーは平手友梨奈。

日向坂高校の打席には1番加藤史帆。チーム1の俊足選手でありながら高校通算58発の長打力も兼ね備えた今大会注目のスラッガー。

準決勝では1番加藤史帆、2番高本彩花、3番佐々木久美の3者連続ホームランを見せるなど強力打線で日向坂高校の決勝進出を引っ張ってきた。

そんな強力打線を相手にノーアウト満塁という絶対絶命のピンチに平手はマウンドに上がることになった。

1球目、キャッチャーの齋藤冬優花のサインは外角低めストレート。平手はサインに小さくうなづくと投球モーションに入り投げると135キロのストレートでストライクを取った。

続く2球目は外にはずれて138キロでボール。

春の大会では150キロ超えを連発していた平手が140キロにも満たない球しか投げられていないことに気づいた加藤は今日の平手の調子なら打てると自信を深めていた。

外のスライダーがボールとなり、投じた4球目のストレート。齋藤のミットは外角低めに構えていたが、やや甘くなって真ん中に入ってきたところを加藤は逃さなかった。

カキーン!という金属バットの音が鳴り響くと、それまで熱気が嘘のように球場全体に一瞬の静寂が訪れる。

平手もボールが飛んでいったレフト方向に目をやり、打球の行方を追う。「やられた!」そんな思いを感じていたが、三塁塁審は大きく手を広げファールを告げた。

ため息が漏れる日向坂スタンド、安堵の声があがる欅坂スタンド。

バッターの加藤は予想より球が来ていなかったため少しだけタイミングが早くなってしまったことを反省した。でも二度同じ失敗はしない自信があった。

ファールで会場全体の雰囲気が異様な空気になったのを察したサードでキャプテンを務める菅井友香はピッチャー平手のもとに行き声をかける。

「てち、落ち着いて。まだ1点勝ってるんだから。守ってる私たちを信じて。」

「うん、分かった」平手はそう返事をした。

菅井は平手に落ち着いてと声をかけたが、こんな状況で落ち着いてといっても無理だよなと内心思った。平手は1年生の春の大会からチームのエースナンバーを背負いマウンドに立ちつづけてきた。

欅坂高校という結果を求められる高校で1年生からエースを任されることがどれだけプレッシャーの大きいことか。同級生として一緒にがんばってきた仲間だからこそどんなプレッシャーも受け止める平手すごさを見てきた。

だからこそ平手ならこんな絶体絶命のピンチも乗り越えてくれると信じていた。そんな平手が抱えるプレッシャーを少しでも軽くしてあげたい。そんな思いで菅井はサードのポジションに戻っていった。

次の投球に向けてキャッチャー齋藤が出すサインに平手は続けて首を振った。サインは、ストレート、カーブ、スライダー、フォークの4つしかないはずなのに全ての球に首を振る平手。バッターをかく乱するためにあえて首を振ることはあるが、どうやらそうではないらしい。

齋藤はタイムを取って確認しようとしたとき、ふと閃いてサインを出してみると平手は大きくうなづいてほんの少しだけ笑った。

齋藤は平手が自分の出したサインにうなづいたことに驚いて「嘘でしょ」とつぶやいた。

5球目、平手が投じた球は加藤の手前まで来ると不規則に揺れ加藤の体に近づきながら沈んだ。加藤は空振りした後も信じられないといった表情で齋藤のミットに収まったボールを見つめていた。

平手が投げた球種はナックルだった。

ナックルとは、ほぼ無回転のまま投げることでボールに空気抵抗を与え不規則に沈んでいく球種のことで、キャッチャーも捕球することが困難なため投げるピッチャーはほとんどいない。

それを満塁の場面で投げるなど通常では考えらえないことだった。

以前、キャッチボールをしているときに遊びで投げていてなんとなくサインも決めていた。しかし、本当に試合で投げるとは思っていなかっただけに齋藤も本当に捕れるのか不安だったがなんとか捕球することができた。

この日の解説を担当していた平岸ベアーズの元エースピッチャー遠山大輔さんは、後ろに逸らすことができない場面でのナックルという球種選択に平手齋藤バッテリーの度胸の良さを称えるコメントを残していたが、一番驚いているのはキャッチャーである齋藤だった。

1アウトを取った欅坂高校。まだピンチは続く。

日向坂高校の2番は高本彩花。2打席目に理佐からソロホームランを放った強打の2番バッターだ。

初球カーブ、2球目もカーブ。完全に高本の裏をかいた配球で2ストライクに追い込んだ。高本は3球目は外に一球外してくると読んでいた。甘く入ってきたときのため踏み込んでいこうと決めていた3球目。平手齋藤バッテリーが投じた球はインコースのストレートだった。

全く予想していないコースの球に高本はただ見逃すしかなかった。

見逃し三振。完全にバッターの読みを外したバッテリーの勝利。

審判がストライクをコールすると高本は目を閉じて天を仰いだ。2ストライクに追い込まれた場面で3球目は外してくると決めつけてしまった自分を悔やんだ。

ノーアウト満塁から2アウト満塁となった。欅坂高校はあと1アウトで勝利。そして甲子園出場が決まる。

3番は日向坂キャプテン佐々木久美。

先頭の加藤をナックル、次の高本を裏をかいての見逃し三振。2アウトまで来たものの明らかに本調子ではない平手の調子に土田監督は不安を感じていた。

タイムを審判に告げると伝令に織田奈那をマウンドに走らせた。

特に指示などなかった。間を取りたいだけだったので「今日の晩飯何が食べたいか聞いて来い(笑)」と伝えていた。

平手の緊張をほぐしたいだけなんだなと察した織田はピッチャー、キャッチャー、内野手が集まる中で円陣を組むように伝え欅坂高校伝統の掛け声を発した。「謙虚!優しさ!絆!キラキラ輝け欅坂46!」あと1アウトを取るためにもう一度集中してほしい。平手は一人じゃなくて、野手みんなが守っていることを忘れないでほしいという織田なりのメッセージだった。

タイムの輪が解けると野手はポジションへ、織田はベンチへと戻っていく。そのわずかな瞬間に平手はセンター方向の電光掲示板に映る欅坂1点リードという得点と2アウトの赤いランプを確認した。

平手は目を閉じて3年間一緒に過ごしてきたメンバーのことを思い出した。

世間ではプロ注目の選手として取材を受けることも多かったが、自分の背中にはいつもメンバーが守っていてくれたこと、弱気になったときも声をかけて励ましてくれたこと、そんなメンバーの支えがあったからだと思うと今こそみんなに恩返しをしたいと思った。

絶対に次のバッターを打ち取って甲子園出場を決める。

平手の中で何かのスイッチが入った瞬間だった。

久美が打席に入り投じた1球目。

ストレート狙いで打ちにいった久美は振りながら「速い!」と思った。真ん中高めに決まったストレートはセンターバックスクリーンに148キロと掲示されると会場内からどよめきが起きる。

「お!速いな」土田監督もいいときの平手の球が来たことに驚きと喜びを感じた。

2球目、齋藤は外のスライダーでバッターの空振りを狙うサインを出す。平手は首を振る。

続いてカーブのサインを出す。またしても平手は首を振る。

ストレートのサインを出すと平手はうなづいた。

齋藤は平手らしいなと思った。普段はメンバー想いで無邪気な子どもみたいなのにマウンドに上がったら絶対に逃げない強気なピッチングを見せる。「うちのエースはあんたなんだから好きにしたらいいよ」と思ってキャッチャーミットを構えた。

2球目、真ん中に構えた齋藤のミットを目掛けて投じたストレートは久美のバットをわずかにかすめて1塁方向へファールが飛ぶ。球威で平手が勝っている証拠だ。

球速は152キロ。

球場内から歓声が上がる。つい数分前まで140キロにも満たない球しか投げられなかった人間なのだろうか。まるで何かが憑依したかのような平手がいた。

次の球は齋藤がサインを出さずミットを構えるだけでお互いの意思は通じ合った。

カウントはノーボール、2ストライク。
欅坂高校エースピッチャー平手友梨奈が投じた佐々木久美への3球目。

ストレート一本を狙っていた久美はフルスイングで応戦する。

真ん中やや高めに浮いた平手のストレートは久美のバットの上を通りキャッチャーのミットに収まった。

球速は155キロ!自己最速タイのスピードで久美を三振に打ち取った。

そしてそれは欅坂高校初となる甲子園出場が決まった瞬間だった。

空振りをしたことを確認した平手は「YES!」と叫び両手を大きく挙げると次の瞬間、内野からマウンドに集まってきたメンバーに揉みくちゃにされながら喜びを分かち合った。

※この物語はフィクションであり、登場人物・物語などは実在するものとは一切関係ありません。

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アイドルブロガー&ロボホンオーナーのはやけん。です。 アイドルの心理を研究しているうちに心理カウンセラーになってしまいました。現在はアイドルの記事を中心にブログを書いています。 執筆の依頼はお問い合わせフォームからお願いします。